胸痛の対応
救急外来での胸痛の対応について勉強したことをまとめたいと思います。適宜改良していってより使えるものにできればと思います。
診療の手順
- 問診、病歴聴取
- 身体診察
- 検査
- 治療
問診、病歴聴取
痛みの問診はOPQRSTを思い浮かべながら行います。以下、鑑別に挙がる疾患です。
O & T:Onset & Time course
早朝安静時:冠攣縮性狭心症
労作時:器質的狭窄による狭心症
空腹時:GERD、十二指腸潰瘍
吸気時:肺塞栓症、胸膜炎、心膜炎
体動時:筋骨格系
P:Positon/Provocative/Palliative factor
痛みの領域を聞いたときに、指 1 本は虚血性心疾患は否定的。手のひらサイズ・握りこぶしサイズは心臓由来。
安静で改善:労作性狭心症
ニトロで改善:狭心症(5 分以内)、GERD、胆石発作(10 分以上)。
坐位,前傾姿勢で改善:心外膜炎
臥位で増悪:GERD
Q:Quality
絞扼感,圧迫感:虚血性心疾患
引き裂かれるような鋭い痛み:大動脈解離
移動性:大動脈解離
R:Radiation
肩:虚血性心疾患(左手、両腕にも放散、その他頸部、咽頭、歯、下顎にも放散しうる)、胆囊炎
背部:大動脈解離、虚血性心疾患
頸部と僧帽筋下縁(特に左側):心膜炎、虚血性心疾患
S:Severity
NRSでスコアリング。ただし胸痛の重症度と虚血性心疾患の有無は相関しないため注意。
その他に病歴聴取で重要なことに以下があります。
coronary risk factorの有無の確認:
年齢(男性55歳以上、女性65歳以上)、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満、家族歴
その他の動脈硬化リスク:
CKDや透析患者、脳梗塞
肺塞栓症のリスク:
悪性腫瘍、長時間の安静、骨盤手術歴、喫煙、妊娠、ピル内服歴
心筋虚血は酸素供給の減少と酸素需要の増加を生じる病態が原因となるため、その背景も確認
酸素供給の減少:貧血、低酸素の有無、コカイン使用歴
酸素需要の増加:発熱、甲状腺機能亢進、高血圧の有無、コカイン使用歴
身体診察
視診:全身状態をチェック。苦悶様表情や冷汗が多いなどは重篤な疾患のサイン。
上から下へ診察。
神経:意識レベル、瞳孔
頸部:頸静脈怒張(心不全)、hepato-jugular reflux(心不全)、気管偏位(気胸)
胸部:握雪感(気胸)、呼吸音の低下・左右差(気胸)、努力呼吸、crackle・wheeze
(心不全、肺炎、胸膜炎)、Ⅲ音Ⅳ音(心不全)、心雑音(AS、AR、MR、心
室中隔穿孔)、心膜摩擦音(心膜炎)
腹部:血管雑音(大動脈疾患)、腸蠕動音、心窩部圧痛(消化器系疾患)、右季肋部痛
(胆囊炎)
四肢:左右差、腫脹・疼痛(DVT の有無)、下腿浮腫(心不全)、冷汗
検査
血液検査、動脈血液ガス分析
WBC、CRP、AST、LDH、心筋逸脱酵素(CK、CK-MB、トロポニンTまたはトロポニンI)、Dダイマー提出する。
トロポニンは心不全、腎不全や透析患者、横紋筋融解症では偽陽性となることがあり注意が必要。
心電図
必須!前回と比較し、5~10分ごとに繰り返すこと。
ST変化だけでなく、異常Q波、陰性T波、新規発症の左脚ブロックにも注意する。
胸部単純 X 線写真
心拡大、肺水腫、上縦隔の拡大、気胸、皮下気腫、縦隔気腫を迅速にチェック。
肺炎(浸潤陰影)、胸水貯留も同時にチェック。
心エコー
胸痛の場合の心エコーでは、ACS に伴う心室壁運動低下、大動脈解離に伴う AR
やフラップ、心タンポナーデを示唆する心囊液貯留、心室中隔穿孔や乳頭筋断裂
に伴う MR の所見、肺塞栓症による右室負荷所見を見逃さない。
胸腹部造影 CT
大動脈解離を疑ったとき:
Aorta CTA(3D/2D)。手術の可能性が高ければ,最初から 3D で撮像
肺塞栓症を疑ったとき:
PE CT scan。肺動脈相と静脈相(腹部〜下肢)
<参考文献>
内科レジデントの鉄則 第3版
当直ハンドブック Ver2